光文社新書 松永 和紀 (著)
食品や健康に関するメディア・バイアス(メディアによる情報の取捨選択のゆがみ(=バイアス))をあぶり出す、という本ですが、扱われているのは、記憶に新しい『発掘!あるある大事典Ⅱ』の「納豆ダイエット」のねつ造問題のような、(比較的)分かりやすい問題だけではありません。
「化学薬品」や「食品添加物」のようなリスクとベネフィットへの誤解、「オーガニック食品」や「昔の食事は健康」といった根拠のない安全神話、「マイナスイオン」のうさんくささや、「バイオ燃料」に隠された政治など、非常に幅広い問題について、具体的な「メディア・バイアス」の事例を紹介・解説していて非常に分かりやすい内容です。
ただ、この本は単にメディアの不備を指摘するメディア論の本ではありません。食品や健康を例に、科学全体の「メディア・バイアス」を生み出す社会全体のメカニズムを、メディアを観る私たちの視点から解き明かしてくれています。
そのメカニズムに登場するメディアは、「ねつ造」をする悪意だけでなく、「暴走」する正義感を持っていることがやっかいです。そして、このメカニズムには、不安感を抱えた消費者、研究者の売名行為、市民団体の思惑、さらにはそうした状況を利用する企業まで、さまざまなアクターが登場していて、非常に混沌としています。
もちろん、研究者、業界団体、メディア、それぞれに努力はしていて、そうした取り組みも紹介されています。しかしやはり、状況を変えるのは、私たち視聴者が賢くなることです。
松永さんは、巻頭でこう述べています。
ねつ造をののしるだけではダメです。情報の受け手が単純さを求めるのをやめ、メディア・バイアスを意識して、溢れる情報に疑問を持ち、質の悪いものについては「番組の途中でチャンネルを変える」「週刊誌を買わない」などと行動しないと、メディアは何も変わりません。
そして、最後の章は「科学報道を見破る10カ条」ですが、これはぜひ、本書を通読したあとに読んでほしいと思います。
科学(理科)をなぜ勉強するのか、という問いに対する答えの一つは、インチキな情報(メディアを含めて)にだまされないため、だと私は考えています。
科学教育の場でも、ぜひメディア・バイアスの影響について教えてほしいものです。